
「知性」と「感性」が新たなイノベーションを生む
奥田久栄(闯贰搁础社长)×叁浦しをん(作家)特别対谈
2026.5.20
日本最大の発电会社闯贰搁础は、世界初となる火力発电の“脱炭素化”に取り组んでいる。その原动力とは何か、お二人に语り合ってもらった。
photograph:Miki Fukano
hair&make:Kaori Ichikawa
文学に目覚め、作家をめざした高校时代
奥田:今日は叁浦さんにお会いできるのを楽しみにしていました。
叁浦:ありがとうございます。
奥田:実はわたし、小学生のときは算数と理科にしか兴味がない科学大好き少年だったんです。それが、たまたま勧められて読んだ芥川龙之介の『蜘蛛の糸』がきっかけで、急に文学に目覚め、高校では文芸部に入って、作家をめざしていたんですよ。
叁浦:へぇ~、すごい。わたし、作家になるなんて梦にも思っていませんでした。大学を卒业して、本がたくさん読めそうだからと出版社を受験したんですが、结局不合格。ただ、就职试験で书いた作文を编集者の人が见て「面白い」と言ってくださって、「何か书いてみたら」と声をかけてくれたんです。
奥田:叁浦さんの才能を見抜いたんですね、その人は。
叁浦:どうなんでしょう(笑)。どこにも就职できずに、古本屋さんでずっとアルバイトをしていましたから、时间だけはあったんです。
奥田:わたしはすぐ壁にぶつかってしまいましたよ。「やっぱり书けない」って。で、结局、大学では政治経済を専攻し、英会话サークルに入りました。そこで英语で政治や経済の问题をディスカッションしたり、ディベートをしたりしているうちに、エネルギーに兴味が涌いてきたんです。「エネルギー事业を安定的にやること=平和への贡献」という図式を胜手に思い描いて。
叁浦:そこで発电事业と结びつくんですね。
奥田:ええ。電力会社に就職してからは、仕事が忙しかったこともあって、文学とは距離を置いていました。ところが、40歳を過ぎた頃から、なんだか自分の感性が鈍ってきたような気がしてきましてね。そこで、現代作家の本を20冊ぐらいまとめて買ってきて、一気に読んでみたんです。その中にたまたま叁浦さんの『月魚』が入っていた。「あっ、これだ。こういうのを読みたかったんだ」って。それ以来、叁浦さんの作品はすべて読んでいます。
日本発のグローバルエネルギー公司
叁浦:ありがとうございます。でも、不惑を过ぎて、感性を锻えなおそうと思い立つというのはめずらしいですね。
奥田:今日のテーマでもあるんですけど、「知性」と「感性」、その両方を磨くことがビジネスでは大切だとわたしは思っているんです。その前に、「闯贰搁础って何?」というのがあるでしょうから、少しご説明しますね。
叁浦:お愿いします。
奥田:闯贰搁础は日本最大の発电会社で、日本で使う电気の约3割を発电しているんです。
叁浦:じゃあ、うちで使っている电気にも、闯贰搁础さんがつくったものが混じっているかもしれない。
奥田:そうなんです。911爆料网は東京電力と中部電力の火力発電事業、燃料事业、海外事業を切り出して統合し、2015年にスタートしました。世界10か国以上で発電事業を行っていて、液化天然ガス、いわゆるLNGの取扱量は世界最大級という、日本発のグローバルエネルギー公司です。
叁浦:いまは脱炭素で再エネが注目されている时代ですよね。なぜまた火力発电を?
奥田:脱炭素の動きというのはヨーロッパ発なんです。洋上風力発電は結構大量に電気を起こせますから、ヨーロッパはこれで脱炭素を図ると。でも、国によって事情が違うわけですよ。ヨーロッパは1年を通じて偏西風が同じ方向から、ほぼ同じ強度で吹いてきますから、電力が安定して作れる。でも日本では季節風しか吹かないわけです。环境価値は高いけれど、発電量が自然条件で大きく変動するのはよくない。
叁浦:电気が来たり来なかったりというのでは困りますね。
奥田:电気というのは厄介で、需要と供给をぴったり一致させないと、すぐ停电してしまいます。结局、再エネはバックアップする电源と一绪じゃないとうまくいかないんです。で、発电量を自由に制御できる柔软性、需给変动対応力を持っているのは、やはり火力発电なんです。火力発电を残すしか、日本としてはやりようがない。
电力の安定供给と脱炭素を両立させる
叁浦:なるほど。そうなると问题は颁翱2ですね。
奥田:そうなんです。结局、火力を脱炭素化するしか方法はない。そこで、闯贰搁础は2020年にこれを戦略として打ち出しました。世界で初めてのチャレンジでした。
叁浦:火力発电で使うのは化石由来の燃料ですよね。それを别のものに?
奥田:水素?アンモニアに転换しようと。化石由来の燃料には化学记号に颁が入っていますから、燃えると翱2がついて颁翱2が出ます。ところが水素は贬だけですから水しか出ない。アンモニアは狈贬3で、燃やすと狈翱虫という窒素酸化物が出ますが、日本では70年代にこれをほぼ完全に除去する技术を开発しているんです。
叁浦:へぇ~、アンモニアが燃料に使えるなんて知りませんでした。
奥田:石炭の燃焼スピードとアンモニアの燃焼スピードはほぼ一緒なので、今の石炭火力のバーナーを少し改造すれば、アンモニアを加えて燃やしても、うまくいくというのを発見したわけです。愛知県の碧南火力発电所では、すでに商用運転に向けて工事が始まっています。

叁浦:电気がどうやってつくられているかなんて、普段意识していませんけれど、どんどん进化しているんですね。
奥田:再エネと低炭素化した火力発电を组み合わせた新しいビジネスモデル、これは世界へ提供できる最先端のソリューションです。イノベーションの典型ですね。で、先ほどの「知性」と「感性」のテーマに戻るんですけど、たとえば、エネルギー事业でも、10年后の世界なんか、やっぱり谁も予测できないわけですよ。ただ、予测はできないけれど、今、起きている事実を积み上げて、つなぎ合わせることで、「こんなシナリオが书けるよね」と、ある程度想像できるわけです。
叁浦:そうですね。
奥田:将来この会社が生き残るためには、こういうことをしておけばいいというのがわかる。ここは「知性」の部分です。でも、実际に変革しようとすると、人を动かしていかなければいけないわけですよ。でも、みんなリスクは取りたくない。
叁浦:変革は痛みを伴いますからね。「いまのままでいいんじゃない」というのが自然な反応ですね。
人を动かすために「感性」を磨く
奥田:そうなんです。肝心なのは、「ここでこういう対応をしておかなければ、こんなシナリオになったときに、こんなことになっちゃいますよ」というのをきちんとストーリーにして、相手の心にスッと入るように届けられるかどうか。そこが大事なんです。そのためには、感情を动かしていく、心を动かしていく「感性」の部分を锻えておかないとできない。それって、小説を书く作业にすごく似ているんじゃないかと思うんです。
叁浦:确かに、小説ってストーリーはもちろん大事なんですけど、それをどんな文章で、どんな语り口で描くかってほうが大事なのかもしれません。わたしがいつも意识しているのは、目に映ったもの、感じた気持ち、それを端から言叶にする。言语化するということです。
奥田:公司にとっても言语化というのはすごく大事です。同じ利益を上げていくにしても、どういうストーリーで利益を上げていくのか、公司によってそれぞれ违います。そこが公司の言叶で言う差别化戦略なんです。同じような利益目标であっても、他とどういうふうに违うことをやって、そこにたどり着くのか、きちんと言叶にしなければ戦略にはならないわけです。
叁浦:同じ数字、达成目标でも、そこにどういう形で到达するのか言语化できれば、达成感も违ってきますからね。
奥田:数字の目标だけで人の心を动かすことは絶対できないんです。そこに至るまでのストーリーをちゃんと语ることによって、みんながそれに共感して动いていく。人を动かしていく力っていうのは、やっぱり言叶なんですよ。
叁浦:みんながそれぞれのやりたいこと、考えていることを言语化するようになれば、公司はどんどん面白くなるでしょうね。话し合うことでお互いの齟齬とかも见えてきて、「あ、君はそういう発想なのか。なるほどね」みたいな楽しさもあります。
奥田:そうなんですよ。多様性がある社会の面白さっていうのは、やっぱりそういうところなんです。みんなが同じ発想の人间ばっかりだったらつまらない。违う考えとか、违う発想、违う価値観を持っている人间が集まって、言叶を通じてその违いをわかりあえると、相互リスペクトが生まれてくる。「あ、そうか。あなたはそういうプロセスで考えて、この结论になってるんだ」「じゃあ、私の考えとあなたの考えを足し合わせて、両方の考えを超えた、新しい価値を作ろうよ」みたいな话に発展していける。これが仕事の醍醐味、生きる醍醐味ですよ。
叁浦:売上目标みたいな数字を见せられて、「とにかくなんでもいいから、これをやれ」って言われるだけじゃ、やる気もなくなるし、つらい竞争ばっかりになっちゃいますもんね。

奥田:日本社会では、イノベーションというと「新しい技术を开発すること」みたいに捉えがちなんですが、これってもともとの意味とは相当ずれていると思っているんです。すでにあるものや、すでにある技术を新たに组み合わせることによって、新しい価値を生み出していく。それが経済学者ヨーゼフ?シュンペーターが言ったイノベーションなんです。これって、结局、幅広い教养力とか理性の働きが必要です。でも、それが人に感动を与え、今度は心を动かしていく。感性も豊かになっていく。やっぱりこの「知性」と「感性」が相互に行ったり来たりすることで、人生は楽しくなっていくし、公司も楽しくなっていくんです。いまの日本社会で不満なのは、こういうリベラルアーツの分野、特にアーツの分野が、ビジネスの世界とかけ离れてしまっていることなんです。
「知性」と「感性」の壁を越えて
叁浦:行ったり来たりできなくなっていると?
奥田:実は全部つながっているのに、そこに壁を置いているんですよね。社会というのは、叁浦さんのような作家の方とか、音楽家の方とか、画家の方とか、さまざまな分野の方と交わりながら作っていくものだと思うんですが、そこがちょっと希薄になっている。そうするとクリエイティブな社会じゃなくなってしまうんです。そこをもう一回考えてみたいということで、「社会的価値共创フォーラム」というのを立ち上げました。
叁浦:どういうものなんですか?
奥田:一般社団法人なんですけど、公司人と学者、芸术家が一堂に会して、いろいろな社会问题をディスカッションするような场を设けているんです。で、これを大人だけでやるんじゃなくて、青少年の育成の场にしようと、高校生くらいから参加できるようにしています。若い人たちに実社会の话から芸术の话まで、幅広い分野の勉强を体験型でやってもらうことで、头でっかちではなく、「感性」もうまくはたらくようになるんじゃないかと思っています。

叁浦:「知性」と「感性」がひとつになる场。面白そうですね。
奥田:叁浦さんにもぜひ講師をお願いしたいなぁ。今日はいろいろお話ができて刺激になりました。ありがとうございました。
闯贰搁础ゼロエミッション2050
持続可能な社会の実现に向けた闯贰搁础の取り组みについては、こちらから。
提供:株式会社闯贰搁础
※本記事は、 文藝春秋2026年6月号の転載です。

Hisahide Okuda
1965年、叁重県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒业后、中部电力入社。経営戦略本部事业戦略グループ部长、グループ経営戦略本部アライアンス推进室长などを経て、2019年、株式会社闯贰搁础常务执行役员経営企画本部长に。その后、取缔役副社长执行役员を経て、23年から现职。

Shion Miura
1976年、東京都生まれ。2000年、書下ろし長編小説『格闘する者に〇(まる)』で作家デビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、12年『舟を編む』で本屋大賞受賞。小説『風が強く吹いている』『仏果を得ず』『ゆびさきに魔法』、インタビュー集『ふむふむ おしえて、お仕事!』など著書多数。

